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守り人シリーズ(もりびとシリーズ)は、上橋菜穂子による異世界ファンタジー小説のシリーズ作品である。外伝とガイドブックを含め全14巻。
概要
児童文学として出版されたが、大人にも好まれるなど、ファンの年齢層は幅広い。短槍使いバルサが主人公の物語は題名に「〜の守り人」と付き、皇子チャグムが主人公の物語は題名に「〜の旅人」と付く。両物語は最終話(天と地の守り人)で合流する。
上橋はイメージによる着想で物語が始まるので、この時は、レンタルビデオの洋画の予告編で見た、炎上するバスから子供を抱えたおばさんが脱出するシーンから槍を担いだバルサのイメージが湧いたと述べている。
編集者に提案したが、当時の児童文学は一般的に子供が主人公なのに対し、30歳の女用心棒を主人公とする本作は型破りなので当初は抵抗を受けたが理解を得て出版された。シリーズ全般の作風には上橋自身による中央アジアの生活と民俗の見聞が影響している。
2006年(平成18年)8月から、NHK-FM「青春アドベンチャー」枠で『精霊の守り人』のラジオドラマが放送された。2007年4月より同作品の再放送と共に『闇の守り人』も放送された。
2007年3月より「月刊少年ガンガン」にて『精霊の守り人』の漫画版が藤原カムイの手で連載され、全3巻にて完結する。同年の4月より同作のアニメ版が放送された。2008年4月より「ヤングガンガン」にて『ジン~アニメ精霊の守り人外伝~』が連載された。2014年8月から「Nemuki+」で『闇の守り人』の漫画版が結布作画で連載。
2016年3月19日から3年にわたってNHKの手でシリーズが実写ドラマ化された。
あらすじ
精霊の守り人
短槍使いの女バルサは、青弓川に流された新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを救う。彼はその身に、この世(サグ)と重なって存在する異世界(ナユグ)の水の精霊ニュンガ・ロ・イム〈水の守り手〉の卵を宿していた。チャグムの母、二ノ妃は、バルサにチャグムを連れて逃げるよう依頼する。新ヨゴの建国伝説では初代皇帝トルガルが水妖を退治したとされ、水妖に宿られたチャグムを、皇国の威信を守るため父帝が秘密裏に殺そうとしているのだ。同時に、チャグムは、ニュンガ・ロ・イムの卵を食らうナユグの怪物ラルンガからも命を狙われていた。
チャグムを連れて宮から脱出したバルサは、卵がチャグムの体を離れる夏至まで、幼馴染の呪術師タンダやその師匠のトロガイと共にチャグムと暮らし始める。バルサもかつて幼い命を奪われかけ、父の親友で短槍の達人ジグロに助けられて故郷カンバルを離れた経験があった。そのころ星読博士のシュガは、チャグムに宿った卵の精霊がかつてトルガルが倒したとされる水妖と同じだと考え、過去の記録を調べはじめる。そこでシュガは、トルガルの伝説が歪曲されたものであるということと、本当はニュンガ・ロ・イムが雨を降らせて作物を助ける存在だということを知る。
闇の守り人
チャグムの護衛を無事に終えたバルサは、ジグロの供養のため自らの故郷のカンバル王国に向かう。バルサが幼い頃、王の主治医であったバルサの父親は王弟ログサムにおどされて王を毒殺させられた。口封じに自分共々バルサが殺されるのを恐れた彼は、親友で100年に1人の天才と言われる短槍使いジグロにバルサをつれて逃げるように頼んだ。それ以後バルサはログサムが死ぬまでジグロと共に逃げ、短槍を習い、生き抜いてきた。
その後、ジグロが死に、用心棒となったバルサは、チャグムの護衛を終えて自らの過去を清算しようと思い立ったのだった。しかしカンバルに帰ってみると、ジグロは戴冠式に使う国宝の金の輪を盗んだ謀反人の汚名を着せられていた。黒い闇に包まれたカンバルをバルサが救う。
夢の守り人
バルサの幼馴染、タンダの師匠トロガイはかつて、農民の女として先の見えた鬱屈とした人生に絶望していた。そんな時、夢の中の美しい湖畔の宮殿で、彼女は一人の男と恋に落ち、子を産み落とした。バルサは、人攫いたちに追われていた旅の歌い手、ユグノを救う。彼は、リー〈木霊〉たちに愛された、リー・トゥ・ルエン〈木霊の想い人〉だった。一方、第一皇子の死により皇太子となっていたチャグムは憂鬱だった。タンダやバルサなどに出会い、民衆の暖かさを知ってしまった彼が宮の暮らしを喜ぶはずはなく、ましてや、一度は自分を殺めようとした帝を尊敬出来る訳もなかった。
毎日不満を漏らすチャグムにシュガはつい、密かに自分が街におりてトロガイに呪術を習っていることを話してしまう。一気に懐かしさが増した彼は、その夜、夢の中で聞こえる声に惹かれ目覚めなくなってしまう。そのころ、皇子を亡くしたばかりの一ノ妃など目覚めなくなった者は他にもいた。タンダの兄の娘カヤもその一人であった。カヤを助けようと一人で呪術を行い、敵の罠にはまってしまうタンダ。肉体をすべて「花」に乗っ取られつつも、なんとか心を乗っ取られるのを防いだタンダは夢の中でチャグムを見つける。
虚空の旅人
新ヨゴ皇国の皇太子チャグムは隣国のサンガル王国の〈新王即位ノ儀〉に出席するため、相談役のシュガを伴い望光の都〈サンガル・ヤシーラ〉に入る。そこでサンガルの開放的な国の様子に魅了される。だが、このサンガル王国を支配しようとするタルシュ帝国からの密使、南のヨゴ人の呪術師が〈ナユーグル・ライタの目〉となった少女の体を使い、チャグムと親しくなったサンガルの第二王子、タルサン王子に呪いをかけ、次代の王となるカルナン王子に重傷を負わせる。チャグムは呪術師の陰謀を洗い出そうとする。
神の守り人
秋ごとの「ヨゴの草市」に行くタンダにつきあって、ロタ王国との国境に近い宿場町を訪れたバルサは、そこで人買いに連れられた兄妹に出会う。彼らはロタでは忌み嫌われる〈タルの民〉の子供だった。偶然にもバルサたちと同じ宿に泊まった人買いたちは、目に見えぬ何者かにのどを切り裂かれて死に、兄チキサもバルサも傷を負うが、妹アスラは無傷で気絶していた。さらに宿で火事が起こり、バルサはさらわれかけたアスラを救うが、タンダとチキサはとらわれる。
兄妹を追っているのは、タンダの知り合いでロタの呪術師スファルとその娘シハナだった。はるか昔、タルの民の娘が、血を好む残酷な鬼神タルハマヤを宿して〈サーダ・タルハマヤ〉となり、全ロタ人を恐怖の圧政で支配したこと、そして幾百年を経た今、その恐ろしき神が少女アスラを通り道として束の間現われたことを、スファルはタンダに語る。ゆえにアスラは消されねばならないのだと。だが〈サーダ・タルハマヤ〉の再臨を望む者たちもまた、ロタ王国に網を巡らしていた。
蒼路の旅人
タルシュ帝国の侵略を受けたサンガルは圧倒的な国力を前に秘密裏に降伏し、新ヨゴを罠にかけようと援助を要請してきた。新ヨゴの帝は罠と知りながら、チャグムの祖父にあたる海軍大提督トーサを暗に葬るため援助に差し向け、チャグムはこれに激怒し宮中で父を怒鳴りつけるという大過を犯してしまう。暗殺される運命で祖父の艦隊へ送られたチャグムは予想通りサンガルの罠に落ちるが、海士らの助けで暗殺の危機を脱し、逃走の機会を得る。だがその先にチャグムを待っていたのは、タルシュの密偵の捕囚となるという、さらに過酷な罠であった。
天と地の守り人
タルシュ帝国の脅威に対し、新ヨゴ皇国は鎖国を行っていた。密出入国の世話をしていたバルサは、山中で自らを探す狩人ジンからの使者に出会い、密書を通じて死んだとされているチャグムの生存とその目的、そしてチャグムの救助を託される。一方新ヨゴに留まっていたタンダの元にも、戦火が迫ろうとしていた。
流れ行く者
王の奸計により父を殺された少女バルサと、暗殺者の魔の手から親友の娘バルサを救ったが故に反逆者の汚名を着ることになったジグロ。二人は故国を捨て酒場や隊商の用心棒をしながら執拗な追手をかわし流れ歩く。その時々に出会った人々もまたそれぞれに過去を持つ流れ行く者たちであった。番外編に当たる守り人短編集。全4話収録。
浮き籾
ある秋、タンダ(11歳)の住む村の近くの集落で、娘が山犬に襲われた。ただ、それは単に「山犬に襲われた」のではなく、地に足の着かない暮らしぶり故に親類縁者から疎まれ、まともに弔われもしなかった、タンダの遠縁の男の祟りではないか、と村では噂された。
ラフラ〈賭事師〉
13歳のバルサは、ロタ王国の酒場で、ススット(サイコロを使う遊戯)をする老ラフラ(賭事師)のアズノと知り合う。アズノは、氏族長の重臣ターカヌと 50 年に及ぶ長いススットの勝負を続けていた。そして老いたターカヌに代わり勝負を引き継いだ孫のサロームと、公開で勝負の決着を付けることになる。
流れ行く者
ロタ王国の酒場で用心棒として働いていたジグロは、ある夜更けに突然高熱を発して寝込んだ。医術師の薬を飲んだジグロは間もなく回復したが、酒場の主人から「新しい用心棒を雇ったので今いる部屋を空けてくれ」と言われたのを機に、13歳のバルサを連れて新ヨゴへ向かうべく、護衛士として隊商に加わった。
寒のふるまい
小雪の舞うある日、タンダ少年は母親から食事の残りかす(豚や鳥の骨など)をもらって「寒のふるまい」(寒い時期に山の獣たちに食べ物を分け与えること)をしに山へ入っていった。ただし、それはタンダが山へ入ったりトロガイの家を訪ねたりするための口実でもあった。
炎路を行く者
運命に翻弄されながらも新ヨゴ皇国のために働こうとする皇太子チャグムを、同じく運命に翻弄されながら各々の立場から助けるバルサとヒュウゴの少年少女時代を描いた中編2編を収録。
炎路の旅人
南の大陸・ヨゴ皇国において「帝の盾」の息子として生まれたヒュウゴは、タルシュ軍に家族を皆殺しにされながら、河漁師のヨアンと、その娘、ナユグが見えるリュアンに助けられてただ一人生き残り、ケンカに明け暮れる無為な日々を過ごしていた頃、酒場を訪れたタルシュ兵に狙われた男を逃がすことに成功した。男は同じくタルシュに征服されたある国の出身で、現在はタルシュ軍の密偵として働いている、という。
十五の我には
チャグムを刺客の刃から辛うじて救ったバルサは、夜中にふと目を覚まし、チャグムと同年代の頃の自分を回想していた。回想の中の未だ半人前のバルサは、湧き上がる怒りを抑えきれず、自分たちを裏切った護衛士を侮って罠に嵌ってしまう。
春の光
『「守り人」のすべて 守り人シリーズ完全ガイド』に収録された短編。最終話として結婚したバルサとタンダの穏やかな日常が描かれる。
風と行く者
バルサはタンダと訪れた草市でサダン・タラム〈風の楽人〉と出会う。バルサは護衛士として彼らに付き添うが、サダン・タラムとの旅は、ジグロと共に彼らを護衛した20年前、15歳の頃の自分をバルサに思い起こさせるものだった。『炎路を行く者』収録の「十五の我には」は、本作の一場面を抜き出したもの。『天と地の守り人』以来はじめての長編。
テレビアニメ
2007年4月7日から9月29日に、NHK-BS2の衛星アニメ劇場枠で放送された。全26話。2008年4月5日、NHK教育テレビが土曜日午前9時からの枠で再放送を開始。また、2016年4月29日からNHK総合テレビで再放送が開始した。
本来感じるだろう作者のここが違うというものがまるでなくこのアニメが好きで幸福だ、と上橋は発言している。また、放送に先立ち、2007年1月19日放送のNHK総合テレビ「にんげんドキュメント」に、監督の神山健治が出演している。
第1話の川の風景は、神山監督の故郷である秩父の風景がモデルである。
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